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熊本地方裁判所 昭和41年(行ウ)6号 判決 1966年5月27日

熊本市黒髪町坪井三二九番地

原告

永野秀雄

同市二の丸町一の四番地

被告

熊本税務署長 西慶続

右指定代理人

笠原貞雄

宮田正敏

高橋正

山口常義

右当事者間の昭和四一年(行ウ)第六号所得税更正課税処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が原告に対し昭和四〇年七月一四日附でなした所得税更正額金六万七、九九九円のうち金九、〇〇〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和三九年度の所得金額を金二三万二、二〇〇円、税額零とする確定申告書を被告に提出したところ、被告は右申告に対し、昭和四〇年七月一四日附で原告の昭和三九年度の所得金額を金七九万二、〇九二円、税額金六万七、九九九円と更正し、その通知は翌一五日原告方に到達した。よつて原告は被告の右更正処分に対し、昭和四〇年九月二日被告に異議申立をしたところ、被告は同年一〇月二三日附で、原告の異議申立を期間経過後の不適法な申立として却下した。

しかしながら原告の主張する前記税額金九、〇〇〇円は正確に記帳した帳簿に基いてなされているのに対し、被告の前記更正決定は原告の所得の充分な調査を行うことなく、登録税額を所得額と見誤つてなされたものであつて不当であるからこれの取消を求めるために本訴に及んだと述べた。

被告指定代理人等は本案前の抗弁として、主文同旨の判決を求め、その理由として、被告が原告主張の昭和四〇年七月一四日附の更正処分をなし該通知が翌一五日原告に到達したこと、これに対して原告より同年九月二日異議申立がなされたところ、被告が同年一〇月二三日附で、異議申立期間が経過しているという理由でこれを却下したことは認める。ところで行政処分に対する不服申立期間が経過した場合には宥恕すべき事由の認められる場合のほか、行政処分に不服のある者はもはや行政処分の当否について争うことは許されないものと解すべく、処分庁が不服申立を期間経過後の不適法な申立として却下した場合においてはその却下決定が違法でない以上、訴訟をもつてしても原処分の当否を争うことは許されないものである。しかるところ前記更正決定に対する異議申立の却下決定には何等違法の点はないので、本件訴は不適法なものとして却下されるべきである、と述べた。

理由

原告の本件訴が適法であるか否かについて判断するに、国税通則法七六条一項によれば、同条三項に規定する場合を除いては、税務署長がなした所得税更正処分に不服がある者はその処分に係る通知を受けた日の翌日から起算して一月以内にその処分をした税務署長に対し異議申立をしなければならず、その期間経過後はもはや右処分の当否について争うことは許されないものと解すべく、処分庁たる税務署長が異議申立を期間経過後の不適法な異議申立として却下した場合においてはその却下決定が違法でない以上、訴訟をもつてしても異議申立の対象たる原処分の当否を争うことは許されないものと解すべきである(最判昭和三〇年一月二八日民集九巻一号参照)。しかるに本件においては処分庁たる被告が原告の昭和三九年度の確定申告に対し、昭和四〇年七月一四日附で更正決定をなし、その通知が翌一五日原告方に到達したこと、原告が被告の右更正決定に対し、昭和四〇年九月二日被告に異議申立をしたこと、右異議申立がその期間経過後になされたことはいずれも当事者間に争がないところであるから右異議申立は不適法であるといわなければならない。もつとも国税通則法七六条三項は天災その他同条一項の期間内に異議申立をしなかつたことについてやむを得ない理由があると認められるときは、その理由のやんだ日の翌日から起算して七日以内に同条一項の申立をすることができる旨規定しているので、被告がやむを得ない理由ありと認め異議申立を受理した場合は格別であるが、本件では被告はすでに原告の異議申立を不適法として却下しており、この点については別段原告も争わず、またその却下決定を違法とすべき何等の事由もない。

そうすると、本件訴は結局訴訟要件を欠き不適法であるといわなければならない。よつて原告の本件訴は不適法として却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 弥富春吉 裁判官 内園盛久 裁判官 川畑耕平)

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